2013.04.30調査研究

2-エチル-1-ヘキサノールによるシックビル症候群の解明

主任研究者:上島通浩(名古屋市立大学大学院医学研究科環境保健学分野 教授) 我々は以前、室内、度指針値未設定の2-エチル-1-ヘキサノール(2E1H)とシックビル症状との関連を国内で最初に報告した。しかし2E1Hによるシックビル症状の病態はまだよく解明されていない。このため、①文献検討による情報収集、②名古屋市内の建築物における室内2E1H濃度の実態調査、③マウスを用いた濃度段階別吸入暴露実験を行った。①については最近10年間に2E1Hの室内濃度の実態および発生源に関する研究報告が増えていることが明らかになった。②に関しては築6年のビル16部屋でVOCの濃度の測定を行った結果、幾何平均値(幾何標準偏差)は213(1.9)μg/m3であった。TVOC濃度に占める2E1Hの比は61%に達し、2E1Hが主要な汚染VOCである建物の存在が確認された。③に関しては、雄マウスに、0,20,50,150ppmの2E1Hを7日間または3ヶ月間吸入させる実験を行い、曝露終了後鼻粘膜を摘出10%中性緩衝ホルマリン液で固定後、脱灰、パラフィン切片を作成した。HE染色および白血球マーカーCD45、リンパ球マーカーCD3、好中球エラスターゼの免疫染色を行い、鏡見した。その結果、7日間曝露後に、20,50,150ppm曝露群で濃度依存的に鼻腔嗅上皮の構成細胞の減少、好中球の湿潤が見られた。一方、3カ月間曝露後の50,150ppm曝露の嗅上皮には、白血球湿潤(主にリンパ球)が見られ、細胞湿潤は粘膜固有層にまで達しているのが観察された。今回の実験では、曝露早期である7日後に見られた好中球の湿潤が3カ月後にはリンパ球中心に変わり、炎症の進展が示唆された。2E1H曝露による鼻の不快感、刺激性等はヒトのシックビル症状の1つであり、本研究でみられた所見との関連が示唆される。嗅神経の神経科学的な解析が必要と考えられた。

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